久々にジム・ロジャーズ氏の新しいインタビューである。
ジョージ・ソロス氏とクォンタム・ファンドを設立したことで有名なロジャーズ氏は、Frankfurter Allgemeineのインタビュー(原文ドイツ語)に答え、金や原油など様々な市場についての相場観を披露している。やや長いので、話題ごとに記事を分けて訳してゆきたい。先ずはロジャーズ氏の金相場に関する予想から見てゆこう。
昨年から変わっていないロジャーズ氏の金価格予想
ロジャーズ氏は昨年より金価格は1,000ドル以下に下がると予想していた。わたしが昨年末から金に対して強気であるのは読者も知っている通りだが、実は当初はわたしもロジャーズ氏と同じような予想を持っていた。以下は2015年4月、金価格が底値に達する前の記事である。
平均生産コストから充分割り引かれた価格で買いを入れるというのは、一つの選択肢である。具体的には800-1,000ドルのレンジでの買い入れである。 しかし、現在の状況では価格で買うタイミングを決めるよりも、市場の今後の展開を考えて、買うタイミングを決定したほうが良いだろうと思う。
しかし昨年12月に市場が利上げを過度に織り込んでいるのを見たとき、わたしはそこを底値だと判断し、1,000ドルを割る前に金の買い入れを開始した。一方でロジャーズ氏は1,000ドルを割るという予想を維持した。金価格はその後以下のようになっている。
ロジャーズ氏の金相場予想
金相場は今後ここからどうなるか? 様々な投資家が思惑を巡らせているところだが、ジム・ロジャーズ氏は当初の弱気予想を崩していない。彼の意見を見てみよう。
先ず、2008年の金融危機に前後して、コモディティ価格はあまりに高騰し、高過ぎる水準まで上がった。原油は147ドル、金は1,900ドルまで上昇した。その後かなり厳しい調整があったわけだが、今年に入ってからは再びもっとも強い資産クラスとなっている。そしてそれこそがわたしがこの反発が終わると予想する理由の一つだ。
ロジャーズ氏は投資家が金に対して強気過ぎると言う。「投資家にもっとも嫌われている資産クラス」を好んで買うロジャーズ氏らしい発言であり、典型的な逆張りの考え方で個人的にもそれは嫌いではないが、しかしそれが正しいかどうかは時と場合による。
例えばアベノミクス開始時に懐疑とともに始まった円安への熱狂は、ドル円が80円から120円に上がるまで長らく続いた。90円あたりで投資家が更に買うべきか迷っていた場面は、日本の投資家もまだ覚えているだろう。
金の場合はどうなるか? ロジャーズ氏はこう続ける。
投資には何も安全なものなどないということをわたしは学んだ。だが多くの人々は金を安全資産だと考え、下がることなどないと信じている。だがわたしは金価格が近々再び1,000ドルまで下落すると予想している。そうなれば、こうした人々は泣き喚いて、もう二度と金など買わないと言い出すだろう。純粋無垢だと思っていた金に裏切られたと思うわけだ。
そしてそれこそがロジャーズ氏の投資をしたいタイミングというわけである。では具体的にいつそれが起こるのかと聞かれ、ロジャーズ氏はこう答えている。
タイミングについてはわたしに頼らないでくれ、市場のタイミングを当てるのは苦手なんだ。だが数年のうちに人々は金への熱狂から覚め、金は投資家にもっとも嫌われた資産クラスとなるだろう。そうして価格が十分下がったその時には、わたしは恐らく再び金を買うだろう。
今回はファンダメンタルズというよりは、投資家の心理を根拠とした金相場の予想であった。個人的には論拠がやや弱いと思うので、ロジャーズ氏の過去のインタビューからよりファンダメンタルズに依拠した説明を引用しておこう。
私の予想は、市場の混乱が更に広がり、より多くの人々がドルに資金を逃避させるようになる。わたしはドルを大量に保有している。ドルがそうして上がることで人々はドルを安全通貨だと考えるようになるだろう。あなたも知っての通りドルは安全通貨などではないのだが、多くの人はそう考える。
そうすればドルは更に上がり、過大評価されるようになる。バブルになるかもしれない。そのような時には金は下落する。ドルが上がるときには大抵、いつもではないが、金価格は下がる。そうなればわたしはドルを売り、何か別のもの、恐らくは金を買うことになるだろう。
ただ、ここでわたしが着目したいのは、金の底値に関するロジャーズ氏の予想ではなく、投資タイミングに関する彼の見方である。
世界最悪の短期トレーダー
周知の通り、ロジャーズ氏は自分が短期投資を得意としていないことを自覚している。「世界最悪の短期トレーダー」を自称するのは彼の口癖である。また、彼の元パートナーであるジョージ・ソロス氏もロジャーズ氏を「優れた投資家ではないが非常に優れたアナリスト」と評していた。
ここで着目したいのは、短期投資家として優れていなかったとしても利益を上げられる方法があるということであり、ロジャーズ氏がそれを確立しているということである。それはすべての条件が買いに対して肯定的になるまで何もしないということである。
恐らくロジャーズ氏は、金が投資家に徹底的に嫌われるその瞬間まで金に手を出したくないのだろう。そしてそれは正しい。仮に金価格がこのまま上がり続けようとも、自分の納得の出来るタイミングまで手を出さなかったロジャーズ氏は投資家として正しいのである。
著名投資家のウォーレン・バフェット氏は投資を「見逃し三振のない野球」に例えていた。そしてロジャーズ氏も、買いのタイミングについて、『マーケットの魔術師』のなかのインタビューでこう語っている。
「私は道ばたにカネが落ちているまで待っている。私はただそこへ行って、拾い上げるだけだ。それまで何もしない。(中略)「樽の中の魚を釣る」という格言のような状況を待っているんだ」
そしてこの原則を守っている限り、投資家に損はないのである。また、金相場についても近々再びまとめの記事を書きたいと思っているので、そちらも楽しみにしてほしい。