2016年参議院選挙: 各政党の経済政策・公約をマクロ経済学的に比較する

2016年7月10日に行われる参議院選挙直前となり、有権者は各党の政策について様々考えているところだと思うので、この記事では各党の経済政策について纏め、マクロ経済学の観点から批評してみたい。

財政政策

先ずは消費増税に対する各政党の立場から見てゆこう。安倍首相は伊勢志摩サミットの後に消費増税の延期を表明した。マニフェストを見てみると、どの政党も来年の消費増税には反対しているが、そのニュアンスにはやや差がある、

  • 自民党: 2019年10月まで延期
  • 民進党: 2019年4月まで延期
  • 共産党: 消費増税断念
  • おおさか維新: 消費増税凍結

延期、凍結、断念と様々である。ハト派(緊縮財政反対派)の順で並べると、共産党、おおさか維新、自民党、民進党ということになる。

比較のために法人税に対する政策も見てみたい。法人税に関して積極的に意思表明をしているのは自民党と共産党であり、自民党が法人減税、共産党が大企業への法人減税撤回を主張している。

  • 自民党: 法人税減税
  • 民進党: 中長期的に法人税減税
  • 共産党: 法人税減税撤回
  • おおさか維新: 公式サイトに記述なし

纏めれば、自民党が消費増税と法人減税、共産党が消費増税停止と法人増税ということになる。意外にも民進党は自民党とほぼ変わらずということになっている。

日本の財政は危機的状況にあるが、上げるべきは消費税なのか、法人税なのかという点はこれまでにも議論してきた。先ず重要なのは、法人税が事業の利益にかかる税金、消費税は売買のトランザクションそのものにかかる税金という点である。

消費税はビジネスが上手く行っているかどうかにかかわらず、商売をするならば発生する税金である一方で、法人税は利益が出た場合にだけ払えば良い税金である。法人税はこの点において優れており、経済が上手く行っている場合には多く課税し、そうでない場合には実質的な減税措置となる。消費税は経済の浮き沈みにかかわらず経済活動を阻害してしまう。

また、日本経済の問題点がデフレであることにも注目してほしい。デフレとは需要不足であり、消費増税は需要を更に殺してしまう財政政策である。一方で法人減税を主張する論者は企業の生産性向上を目的として挙げているが、日本経済の問題は企業の生産性ではなく消費者の需要不足である。この点においてはハーバードのジョルゲンソン教授への反論として詳しく論じておいた。

にもかかわらず自民党が消費増税・法人減税を行う理由は、消費増税を望む財務省と法人減税を望む経団連である。日本の経済政策は既得権益層の談合で決まっている。最大野党である民進党も自民党とほぼ同じ方針であり、方針としては正しい共産党の政策根拠は、しかしながら社会主義である。日本にはまともな政党が存在しないのであり、日本経済の行く末が思いやられる。

金融政策

次は金融政策を見てゆこう。アベノミクス以後、円安株高で何とか維持してきたなけなしの成長率は既にマイナス成長入りしており、金融緩和を今後どうするのかということが論点となっている。

各党の政策は以下の通りである。

  • 自民党: 量的緩和、マイナス金利推進
  • 民進党: マイナス金利撤回
  • 共産党: 「異次元の金融緩和」撤回
  • おおさか維新: 金融緩和賛成

ハト派(緩和賛成)の順で並べると、自民党、おおさか維新、民進党、共産党ということになる。

先ず、アベノミクスに関しては長期金利を低下させたこと自体はマクロ経済学的に正しい。労働人口の減少などで潜在成長率が低下しているのだから、金利もそれに合わせて下げる他ない。日本に限らず先進国は何処も似た状況にあり、経済学者のラリー・サマーズ氏はこの状況を長期停滞と呼んでいる。

しかし問題は低金利が金融バブルを生むということである。特に日本市場では量的緩和バブル崩壊が始まっている。

金利を下げる必要があるが、金利を下げればバブルが発生する。経済学者ラリー・サマーズ氏はこの状況を「長期停滞下ではバブルに頼らなければまともな成長率が維持できない」と表現している。

つまり先進国経済は、低金利を実現するためにバブルを許容するか、低金利を諦めてデフレを許容するか、選択を迫られているのであり、自民党は前者を、共産党は後者を取っているわけである。デフレ許容を推奨する論者には著名債券投資家のビル・グロス氏などがいる。

しかしながら、マクロ経済的にはこの選択において両取りを行う方法がある。それは量的緩和で低金利を実現しながら、財政政策や規制(マクロ・プルーデンス政策)などで金融市場バブルを抑制する方法である。しかしハト派の自民党は年金基金に株を買わせてむしろバブルを煽ることを選択し、タカ派の共産党はデフレによる被害を抑える努力を放棄した。だから日本の政党の金融政策のなかにマクロ経済的な最適解は存在しないのである。

結論

したがって、結論はほとんどの日本人が承知している通り、日本にはまともな政党は存在しない、である。今回はマクロ経済政策だけを取り上げて批評したが、有権者には当然その他の政策も考慮しながら投票をしてほしい。どの政党も表立っては声を上げていないテーマだが、わたしが移民政策について憂慮しているのは読者には既知の通りである。移民政策は既に水面下で進められている。

日本経済は今後非常に困難な状況を迎える。金融バブルで何とか保っていた成長率も、今後1-3年の間にすべて崩壊し、しかもその時には日銀はすべての手段を使い果たしているだろう。優れたファンドマネージャーは既に世界的な巨大バブルの崩壊に備えており、そうなればリスクオフの円高で二重に影響を受ける日本経済への被害は甚大である。

ほとんどどうしようもないと言える日本経済の現状だが、その状況下でもどのような政策が最良かについては以下の記事で論じておいた。各政党のマニフェストとわたしの意見、どちらが説得力があるだろうか? 批評しながら読んでもらえれば幸いである。