アベノミクスも本当に終わりに近づいてきたというわけである。2016年第1四半期のGDP速報値が発表され、実質GDPは-0.05%(前年同期比、以下同じ)のマイナス成長となった。個人消費は前期よりマイナスになっていたが、GDPそのものがマイナス成長となったのは、消費増税後の1年間を除けば2013年以来初めてである。以下がグラフであり、順に内訳を見てゆこう。
ついにマイナス成長となった実質GDP
先ず注目すべきはやはり、マイナス成長となった全体の数字だろう。主要メディアでは前期比年率の1.7%が主に報道されているが、季節の異なる四半期を統計上の季節調整で無理矢理比較する前期比年率を見ていては、前回がマイナス成長で今回が1.7%などという不安定な数字になるのであり、前年同期比で1年ごとの比較をするのがトレンドを把握する上でも有効だろう。
さて、前年同期比の実質GDP成長率だが、前回が0.85%、今回が-0.05%と順調に下落の一途を辿っている。アベノミクスによる高成長がほとんどすべて円安の成果だったということが今後の経済指標でよりはっきりするだろう。
個人消費はマイナス成長もやや持ち直し
個人消費は-0.69%のマイナス成長であり、前回の-0.96%からやや持ち直したものの、変わらず芳しくない数字である。株安で富裕層の財布の紐が締まったことや、円高による中国人観光客の減少などで、デパートなどの高級品販売が低調となっていることが象徴的だろう。
この傾向は今後も続くどころか、今後はより酷くなると予想している。ドル円の見通しが非常に悪いからである。
日銀も勝手に弾切れとなり、アベノミクスはここまでだろう。2017年の消費増税など論外だが、消費増税が延期となっても現状ですでに十分悪いのである。
アベノミクスについては、個人的には、潜在成長率の低下に合わせて量的緩和で低金利をもたらしたこと自体は悪いとは思っていない。しかしGPIFと日銀に株を買わせたことは全く余計だったのであり、バブルの発生は後でより悪い結果を生むだけである。ほとんどの日本人は株を大して持っているわけでもないのに、株価上昇で政権支持率が上がるというのは一種の笑い話である。公的機関による株の買い入れは日本経済に対して一切プラスにはなっていない。
より悪いことに、完全な素人によって運営されている年金基金は今後より深刻な損失を出すだろう。日本国民の年金は政権の支持率維持のための生け贄にされたわけである。
比較的好調だった投資も遂に減速
住宅投資は前期の4.96%の成長から2.00%に減速、非住宅投資は4.09%から-1.12%とマイナス成長に落ち込んだ。わたしは今回の速報値でこの数字が一番危機的だと考えている。住宅投資は住宅ローンを通じて低金利の恩恵を直接受ける項目であり、ここが駄目だとすれば日本経済はどの分野も駄目だろう。
一方で非住宅投資の大幅な減速は、恐らくは円安の失速により輸出企業が投資を渋っているのではないか。世界経済の減速もこの項目にはマイナスとなる。
どちらも量的緩和による低金利と円安が日本経済に及ぼす影響を伝えるものであり、しかもその内容はネガティブである。
輸出と輸入はともにマイナス成長が加速
最後に輸出入だが、先ず輸出は前期の-0.98%から-2.51%、輸入は前期の-0.57%から-2.46%と、ともにマイナス成長が加速した。
輸出の減速は円安トレンドが終わったことによるものだが、1-3月期はドル円反転が始まった四半期であり、本当の悪影響はこれからである。
そして円安が止まったにもかかわらず減速している輸入は、それ自体はGDPの押し上げ要因だが、しかし同時に内需の弱さを示すものである。個人消費も輸入もマイナス成長で、投資も減速しているのだから、誰もお金を使っていないのである。
結論
というわけで、アベノミクスの終了をほぼ決定するGDP速報値と言えるのではないか。日本経済の弱さは今後ますます統計に表れてくるだろうが、ここまで見ればトレンドは決定的である。
安倍首相が悪かったのか? 部分的にはそうであり、部分的にはそうではない。日銀とGPIFによる株の買い入れは国民の金を使った選挙対策であり、労働市場が完全雇用であるにもかかわらず公共投資で建設業にばら撒かれた資金はほとんど無駄金となったと言っていいだろう。
しかし潜在成長率が下がる以上は、マクロ経済学的には金利を下げるしかないのであり、安倍首相の罪は金利を下げたことではなく、金利を下げた後に金融バブルを阻止するどころか自分で(あるいは人の金で)煽ったことにある。
日銀に残された手段は上記の記事で列挙したが、ヘリコプターマネーは効くだろうか? 個人的には、少なくとも完全雇用下の公共投資よりは意義があるのではないかと思っている。政府と癒着した企業にばら撒くよりは、国民にばら撒く方がよほど健康的だと思うのだが、そういう議論に話が向かないのは、企業にばら撒かないのでは利権が生まれにくいからだろう。自民党と官僚機構に依存しない選択肢がない時点で、日本の終了は決まっているのである。