世界最大のヘッジファンド運用者が相場で個人投資家が勝てない理由を説明する

世界最大のヘッジファンド、Bridgewatersを運用するレイ・ダリオ氏が、Bloombergのインタビューで個人投資家へのアドバイスを送っている。彼は同時に個人投資家が負けるトレードとはどういうものかについて話しており、損をしないためにはどうすれば良いかを説明している。

プロに勝とうとするな

先ず、一番最初にダリオ氏が強調したのは、機関投資家と真っ向勝負をするなという点である。

わたしのような機関投資家と同じテーブルで戦ってはならない。市場で勝つのは簡単ではない。わたしでも自分の考えが間違っているのではないかと恐れることがある。相場で勝つのは、オリンピックで勝つよりも難しいことなのだ。

相場で一番難しいことは、自分が何を知っていて、何を知らないのかを理解するということである。多くの個人投資家は、何も知らずに市場にやってきて、相場とは上がるか下がるかなのだから、勝率は悪くとも五分五分程度だろうと考える。しかしそうはならないのである。

何も知らない投資家が資金を賭ければ、買った途端に下がり、慌てて売れば、その瞬間に株価は目の前で上昇してゆく。これは別に、その投資家が誰かに監視されているわけではない。何も知らない投資家が買う瞬間が市場の天井なのであり、何も知らない投資家が売る瞬間が大底だというだけのことなのである。

あなたが投資の初心者であれば、周りの投資家はあなたが投資した会社についてあなたよりもよく知っているということを理解しなければならない。株価が大暴落しているとき、それが安いのかそうでないのかを知っていなければ、あなたは恐怖でただ株を売ることになるだろう。一方でその価格が安いと知っている投資家は、あなたが投げ売りしているものを喜んで買うということになる。これが相場の構造である。

プロと戦わない投資方法

そこでダリオ氏はプロと戦わないポートフォリオの作り方を説明する。ダリオ氏によれば、個人投資家はバランスの取れたポートフォリオを組むべきであり、戦略的なポートフォリオを作ってはならないという。

戦略的なポートフォリオとは、短期や中期で投資戦略を自分で考え、いくつかの銘柄を自分で選び、株価についていくらで買い、いくらで売るといったルールを自分で決めて投資をするというものである。ダリオ氏はこう語る。

プロに勝とうとして、戦術的なポートフォリオを組んで、頻繁に売買して市場のなかで動き回るようなことをしてはならない。多分あなたは負けることになるからだ。

ダリオ氏の見解はなかなか厳しいが、しかし多くの個人投資家にとっての真実だろうとも思う。

これは彼が、自分が相場でどのように綿密な分析をし、プロフェッショナルなアナリストチームとともに投資対象を絞り、戦略を立て、投資をしてようやく毎年のリターンを確保していることを実感しているからである。相場にはそういうプロが数多く居るのであり、そこにプロではない個人投資家が入っていけば、勝つことは難しいという理屈である。

ではダリオ氏によれば個人投資家はどのように投資すればよいのか? ダリオ氏の推奨する「バランスの取れたポートフォリオ」とは、つまりは上記のような戦略を自分で建てないポートフォリオのことである。

株を買うのであれば個別株を選ぶのではなくインデックスを買い、またいつ買うかを自分で決めるのではなくずっと持ち続けるということである。また、株を買うのか、債券を持つのかを自分で決めずに、分散して投資をするということだろう。分散については以下のようにも語っている。

ポートフォリオのうち5%か10%程度は金に投資するのが良いかもしれない。

金は長期的にはインフレに対するヘッジになり、また短期的には自国通貨の暴落から資産を守ってくれるからである。

また、ダリオ氏によれば、相場にはほとんど必勝の戦略が一つだけあるという。自分で戦略を建てるなと言ったダリオ氏が勧めるたった一つの戦略は何か? 彼は次のように語る。

ほとんどの資産クラスのパフォーマンスは、長期的には現金を上回る。この原則は信頼していい。ただ、経済恐慌が起きるときは唯一の例外だ。その例外を除けば、この原則は正しいと言える。

相場は短期的には予測できないが、長期的には予測可能である、というのはファンドマネージャーにとっても真である。ダリオ氏は、長期的にも予測が難しい個人投資家にとっては、より長期の法則に賭けるのが良いと主張する。確かに超長期的にはどのような資産クラスでも現金よりはリターンが良いかもしれない。これならば誰にでもできる投資ということになる。

個人投資家にはかなり厳しい意見だが

ダリオ氏のアドバイスは個人投資家にはなかなか厳しい意見だが、彼の主張の本質は、自分が分からないことには投資をしないということなのである。

多くの人は、例えば数学や物理の難解な理論を理解できないことを容易に認めるが、自分が相場を予測することが出来ないのに、それを認められる人は少ない。一部の人は、チャートを見れば未来の株価が予測できると強く信じている。

投資という分野では、自分が何を理解できないのかを理解することが一番難しく、一番重要なのである。

プロの場合

自分が分からない分野から撤退するというのは、実はプロの投資家でも同じである。例えば、ヘッジファンドマネージャーのようなバイサイドの投資家は、投資銀行などセルサイドの組織にいるトレーダーのことを「損失を会社が負担してくれるプット・オプションがなければトレード出来ない、リスクの取れない人々」だと思っているが、ファンドマネージャーが投資銀行に喧嘩を売らない分野が一つだけある。情報戦である。

セルサイド、特に大手には様々な情報が入ってくる。上場している企業を顧客に抱えていることもあれば、中央銀行とのやりとりがあることもある。投資家とのやり取りもあり、市場のセンチメントをより身近に感じることが出来る。

セルサイドのアナリストが「売り」の判断を出しにくいのは、各企業とコネクションを保ち、情報を仕入れたいからである。企業側も良い投資判断を発表してもらいたいため、そうしたアナリストにより多くの情報を語ることがある。

情報戦という観点から言えば、実はファンドマネージャーは個人投資家と同じ土俵に立っている。自分でアナリストを雇ったりはするが、セルサイドのように業務を通じて入ってくる情報というものはない。だから決算発表後の短期トレードなど、特定の情報に強い投資家が有利なトレードでは、ヘッジファンドはセルサイドのトレーダーよりも不利な立場に置かれることがある。

カール・アイカーン氏のように投資先の企業に取締役を自分で送り込むアクティビストならば話は別だが、グローバル・マクロのヘッジファンドは、むしろ個別株へのリスクを減らし、経済全体の流れに賭けることでこの情報戦のリスクを減らしている。自分の不利な分野には賭けないのである。

ダリオ氏に言わせてみれば、個人投資家は相場のほとんどの場面でプロよりも不利だから、自分の判断で投資せず、分散して長期ホールドするのが良いとの意見なのだろう。わたしはそこまで極端には言わないが、自分が何を分かっていて何を分かっていないのか、見直してみるのも良いだろう。

ちなみに同じテーマについて最近わたしも記事を書いている。興味があれば読んでみてもらいたい。