2016年始めからの世界同時株安を受け、ドル円の動きが低迷している。去年から言い続けてきた通り、今年の相場のキーワードはドル高反転であり、そもそも未だに「アベノミクスによるドル円上昇」という古いトレンドにしがみついている投資家はその時点で間違っているが、ここの読者であればその心配はないかと思う。
しかしながら、それでも日本の友人たちから良く聞かれるのはドル円の相場見通しであり、個人的にはドル円という美味しくない通貨ペアをどうこうするつもりはないのだが、それでも考察は可能であるので、ドル円の動向とレンジ予想について記事を書いてみたい。ポイントは、どれだけ円安になるかということと、ドル高がいつまで続くかということを明確に分けることである。
円安は続き、ドル高には陰り
ファンダメンタルズで見れば、長期的な円安は続くが、ドル高は限界が近づいていると言えるだろう。つまりは円もドルも下がる相場であり、こういう場面でドル円だけを見ていると、何が円高で何がドル安なのかが分からなくなる。
事実、日銀のマイナス金利導入直後のドル円急落を円高であると思っている投資家は多いが、当時ドル円を動かしたのは米国の長期金利の下落でドル安になったことである。当時のチャートを見れば、ユーロもポンドもドル安方向に動いていることが分かる。
円とユーロは元々下落方向に動いている一方で、これまで強かったドルについても、米国経済の減速が懸念され始めている。どの通貨も下落方向に進みつつある相場なのである。
したがって、ドル円を考えるためには、円安がどうなるのか、そしてドル高がどうなるのか、という二点を別々に考える必要がある。先ずは円サイドの要因から分析しよう。
円安は進むか
2016年の円相場を左右するのは主に以下の二つの要素である。
- 量的緩和とマイナス金利による長期的な円安傾向
- リスクオフによる円高
先ず、今後の金融緩和についてであるが、2016年1月に導入されたマイナス金利はまだ利下げの余地を残している。
量的緩和が今後どれだけ続くかという点についても、日本政府は量的緩和を止めることができないだろう。量的緩和とは財務省主導の財政ファイナンス政策であり、現状で国債の金利が上昇してしまうと、政府が膨大な債務の利払いに困窮してしまうからである。したがって緩和的な金融政策は当分続くと思われる。
一方で、リスクオフによる円売りポジションの巻き戻しが起きた場合には、上記のファンダメンタルズにかかわらず円高が発生する。この二つの要素をどう評価するかである。
先ず、米国の金融政策を無視して考えれば、量的緩和の長期継続とマイナス金利によって、理論的にはドル円は130-135円辺りまで上昇しても良い。ただ、為替相場は期待を織り込むものであるから、量的緩和とマイナス金利ともに限界が見えている現状で、130円台までしか進めないとすれば、125-130円が実際に取りうるレートであると言うべきだろう。それ以上上がらないという状況で買う者はいないからである。
リスクオフの円高
ではリスクオフの円高はどう作用するか? 過去の例を参照すれば、2013年5月にアベノミクス後初めて日経平均とドル円が急落した時、ドル円は104円から94円と10%程度の調整となっている。より過激な例で言えば、リーマンショック時には110円から90円と、20%程度の急落となった。量的緩和バブルが崩壊寸前でまだ崩壊しない2016年の市場では、この中間程度のリスクオフが起こりうると見るのが妥当だろう。
世界同時株安がどうなるかという点については、1月に市場が急落するよりも以前に書いた以下の記事で既に説明した。
2016年には市場急落の可能性が常に存在し、その場合のドル円の調整幅は、上記の理屈から言えば間を取った15%ほどであると見るのが妥当だろう。125-130円が理論上の上限とすれば、110-115円のレンジまで押し下げられることになる。
ドル側の事情はどうか?
しかしながら、これはドルサイドの問題をすべて無視した場合の話である。昨年から書いてきたように、ドルの上昇余地はほとんど残されていない。何人もの著名投資家が主張しているように、あと数回の利上げは米国経済にとって致命的な悪影響を及ぼす。
そして最終的には利上げの停止だけでは済まないだろう。アメリカ経済は世界経済の停滞に引きづられ、利下げと量的緩和の再開が必要になる水準まで減速すると予想している。
量的緩和の再開まで行けばドル円は80円台まで逆戻りだが、今回の記事ではもう少し短中期的な予想ということで、2016年末か2017年初め頃のドル円について考えてみたい。
これまで主張してきたように、この時期までにはFed(連邦準備制度)が利下げの必要性を認めなければならない程度までに米国経済が減速していると予測している。利上げが進行する前提で進んできたドル高が利下げという真逆の事実に直面するとき、それはドル円をどの程度押し下げるだろうか?
その時の経済の状態にもよるが、投資家は当然、その後の量的緩和の再開まで考えるだろう。そうなれば、大雑把ではあるがドル円を15%程度押し下げる効果があると見ても良いのではないか。日銀の量的緩和が40%ほど円安を進行させたと考えて、15%を緩和開始が、残り25%を量的緩和の再開が帳消しにするという大雑把な計算である。
結論
以上の考察を円サイドの考察に適用し、前半で算出した目標レンジから15%割り引けば、2016年末または2017年始めのドル円の目標レンジは110-115円であり、リスクオフの円高が起こった場合には95-100円まで下がる可能性がある、ということになる。
勿論、米国の量的緩和再開となればこのようなレンジはすぐに下方向に吹き飛ぶわけであるが、そこまで行くには時間がかかるだろう。
最初に書いたように、わたし自身はドル円に一切興味が無いので大雑把な計算しかしていないが、しかしこれだけの考察で2016年はドル円に旨味がないと結論するには十分だろう。米国と日本の長期金利、どちらに下落余地があるかを考えてもそれは明らかである。
何度も繰り返し言うように、2016年の相場のテーマは先進国経済の長期停滞である。量的緩和を用いて2%の経済成長さえ難しい理由が分かれば、2016年の相場をトレードする方法が分かるのである。
そしてその仮説に従えば、長期停滞の恩恵を受けるのは、例えば金である。
アベノミクスで円安株高という、旧来の相場観から離れられていない投資家は、先ずそこから離脱するべきである。長らく浸かったトレンドから脱出するのはしばしば難しいが、そうすれば次に賭けるべき市場は何処かということが徐々に見えてくるだろう。