チューダー・ジョーンズ氏、インフレヘッジで暗号通貨を買い増し

Tudor Investmentのポール・チューダー・ジョーンズ氏がアメリカの止まらないインフレを受けて暗号通貨を買い増しているとWall Street Journalなどが報じている。

世界的な物価高騰

アメリカの現金給付により始まった物価高騰は世界に飛び火しており、脱炭素政策やウクライナ問題など別種のインフレ要因を巻き込みながら世界的な現象となっている。

アメリカの消費者がインフレを避けるために買っている第一のものが住宅である。

アメリカでは住宅価格が物凄い勢いで高騰しており、それは当然ながら少し遅れて家賃に転嫁される。

アメリカの消費者はこのまま上がり続ける賃料に耐えるのか、それとも住宅を買って自分もそのバブルに乗るのかの二択を迫られており、いまだ低金利が続いているアメリカにおける選択肢は、低金利でローンを借りて住宅を買うということになるだろう。

それこそがインフレの原因なのだが、中央銀行は株価を崩壊させることを恐れて急激な利上げが出来ない。しかし低金利が続けられる間に人々はどんどんお金を借りてものを買い、あらゆるものの価格が上がってゆくだろう。

インフレヘッジ

消費者がインフレを避けるための方法は値段が上がる前にものを買うほかにない。

そして不動産以外に買えるものは色々ある。筆者は年始から今年のトレンドをインフレと景気後退の組み合わせ、すなわちスタグフレーションだと指摘している。

この記事ではインフレを避けるためには以下のものを買うべきだと主張してきた。

  • ゴールド
  • エネルギー資源や関連銘柄の安いもの
  • とうもろこしや大豆、小麦など農作物

これらのものはウクライナ問題の助けもあり大きく高騰した。特に小麦は暴騰したので一部利益確定している。

だがジョーンズ氏は別のものに目を向けているようだ。暗号通貨である。

2022年の暗号通貨相場

ビットコインに代表される暗号通貨は2022年の相場では不調である。ビットコインのチャートを掲載しよう。

ビットコインの不調は去年の11月頃から続いている。これはアメリカの中央銀行が「インフレは一時的なので当面緩和を続ける」から「やっぱりインフレは脅威だったので金融引き締めをする」に移行したタイミングである。

つまり、暗号通貨の価格上昇はこれまで金融緩和による金融市場への資金流入によって支えられていた側面が大きいため、利上げなどの金融引き締めが行われる局面では不利になるということである。

一方で、インフレとは貨幣価値の下落、つまりドルの価値下落であるため、ドルの代わりに決済に使える(使われているかどうかは別にして少なくとも使うことは可能である)暗号通貨にはチャンスという側面もある。

暗号通貨はインフレヘッジになるか?

この状況を投資家はどう考えるべきだろうか。暗号通貨はインフレヘッジに使えるのだろうか?

少なくともジョーンズ氏はそう考えているらしい。彼はこの下落局面で暗号通貨を買っている。

一方で筆者は金融引き締めに対するマイナス影響が大きいと判断したため、今年のスタグフレーショントレードに暗号通貨を加えなかった。

金融引き締めがさほどマイナス要因にならない別の資産がいくつもあるので、そちらに投資した方が良いだろうという判断である。

ウクライナ問題と暗号通貨

だがウクライナ危機で状況は暗号通貨に少し有利になったように思える。アメリカがロシアのドル決済を止めたように、ドルを武器として使い始めたからである。

これは西洋のバイアスにかかっている人々には大したことには思えないかもしれない。しかし西側の大手メディアによるバイアスを通さずに見れば、ウクライナでの戦争はNATOがロシアの国境ぎりぎりまで勢力を拡大し対ロシア用のミサイルを配置してきたことに起因する。

アメリカはロシアに敵意を向けて軍事的勢力を拡大し、ロシアがそれに反抗すればドルを武器に相手に危害を加えたということである。

こうしたアメリカの振る舞いを危険視する国は日本人が思うほど少なくない。ドルを使っていれば何をされるか分からない。

世界第2位の経済を誇る中国はこれまでもドル脱却を目指していたが、ウクライナで起こったことを見てそれを加速させるだろうし、当のロシアも暗号通貨による決済を使って制裁を乗り切ろうとするだろう。

また、インフレや戦争を理由として政府側に資産管理・価格統制的な動きが出てきていることも筆者は懸念している。欧米の国々は自分のイデオロギーに従わない人間には何の遠慮もなく危害を加えるからである。

西側の人間でも政府に管理されている通貨を使っていれば不利益を被ることも今後ありうると考えておいた方が良いだろう。大経済学者ハイエク氏が何十年も前に予言した状況が着々と近づいている。

こうしたことを考えれば、暗号通貨にとってはこれ以上ない状況のようにも思える。だが一方で金融政策は暗号通貨にとって最悪の状況である。

結論

筆者はやはり金融引き締めによる暗号通貨への悪影響を無視することは出来ない。今年の株価の暴落はもともと不可避であり、そうなれば暗号通貨にも大きなマイナスになると考えている。

もしかすると暗号通貨がそのマイナスを跳ね返して上昇するシナリオもあるかもしれないが、他により好条件の投資対象がある中で暗号通貨をあえて選ぶ理由が筆者にはないのである。

一方で株安の後には一度デフレが来る。前にも述べたように現在のインフレは第1波に過ぎない。

金融引き締めが物価と株価の両方を冷やしきった後、大きな景気後退とともに人々はもう一度金融緩和を求めるだろう。

それが第1波より更に大きいインフレ第2波の原因となるのだが、この第2波を引き起こす金融緩和が起こる時、暗号通貨に投資をする絶好のタイミングになるかもしれない。その時には一定期間、インフレと金融緩和が共存するからである。

逆に今は株安でもパフォーマンスの良い資産に重心を置くべきだろう。タイミングごとに最良の資産クラスがあるということである。