速報でも報じたように、 9月17日、Fed(連邦準備制度)は政策金利を維持し、利上げを先送りにする決定を下した。今後の方針については、引き続き多数の会合参加者が年内の利上げを想定しているという従来の表現を続けたのみで、利上げについてこれまで以上の情報発信をすることはなかった。
表題に「不可解な」と書いたのは、以前の記事での予想、つまり、利上げをしない場合は近日中の利上げをはっきりと表明するという想定が外れたからである。この想定が外れた場合に何が不合理であるのか、そしてその矛盾は何を暗示しているのかを、この記事で考えてみたい。
会合まで沈黙を保ったFed
結果発表直前まで考えていたことは、今回利上げがあるとすれば、Fedからの事前の情報発信があまりに少なすぎるということである。通常、Fedが政策変更を行うときには、記者にわざと情報をリークしたりして、市場の反応を見ながら投資家に心の準備をさせるものだが、今回、世界同時株安についても曖昧なコメントを残したのみであったし、イエレン議長に至っては完全に沈黙を保っていた。
市場に十分な準備をさせず利上げを行っては、市場に不用意に混乱を招く恐れがあり、賢明な中銀運営とは言えなくなるだろう。そこでわたしが想定したのが、今回の会合を使って年内の利上げを強く示唆し、市場に心の準備をさせるというシナリオである。しかし今回、Fedは年内利上げを多くの会合参加者が想定しているという、これまでのコメントを繰り返したのみであった。
利上げを織り込ませようとしないFed
ここで弱気派が考えることは、弱まっている世界経済や最近の世界同時株安を考えて、Fedはゼロ金利を継続したいのだということだろう。しかし、そういった推測は、会見でイエレン議長が長期的な利上げの方向性は変わっていないと強調したことと矛盾する。
いずれにせよ利上げをしなければならないのであれば、利上げの可能性をより押し出し、いまだ利上げが長く延期される可能性を夢見ている投資家に覚悟をさせるべきである。Fedは利上げをすると言いながら、市場にそれを織り込ませる努力をしていないのである。
市場はいまだ利上げを織り込んでいない。年内利上げの確率を35.4%とする金利先物市場の数字もそうであるし、また、株式市場が急落したときに量的緩和再開の可能性まで持ちだした市場関係者がいたことを思い出したい。
無用な混乱を避けるためには、利上げをする前にこれを是正する必要があるが、市場はFedが利上げをすると信じていないにもかかわらず、Fedはその認識を改めさせようとはしていない。これをどう解釈するかである。
Fedの対話は成功しているのか?
一番単純に考えられるのは、Fedと市場との対話が上手く行っていないとする可能性である。つまり、Fedは市場に意図を伝えようと努力しているにもかかわらず、市場がそれを信じていないということである。
この推測はもっとも純粋で単純だが、個人的にはこのシナリオをそのまま信じたくはない。Fedは金利先物市場の数字を見ているはずであり、Fedの主張と市場の織り込みとの乖離ははっきり認識しているはずである。そうであれば、今回のように同じ言葉を繰り返すのではなく、別の表現を試みるはずなのである。
市場の不安定性を考慮してより強い表現を避けているとすれば、それは逆効果である。いずれ利上げをしなければならないのであれば、事前に充分に知らせておくことが不安定性を最小化するはずだからである。その意味でこのシナリオには疑問が残る。
Fedが馬鹿でないならば
そこで考えたもう一つのシナリオは、Fedがゼロ金利を続けながら株式市場のガス抜きをしている可能性である。イエレン議長が2015年5月に「株式市場のバリュエーションはかなり高く、危険をはらんでいる」と発言したことを思い出そう。以下の記事でも述べた通り、Fedのもっとも警戒しているのは利上げによる量的緩和バブルの崩壊である。
この記事では、Fedはバブル崩壊時に利下げをするために今利上げをしようとしていると書いたが、この記事で見落としていたもう一つの解決策がある。それは口先介入によって株式市場の水準を下げてしまうことである。
こう考えた場合、Fedの市場との対話は非常に成功していることになる。株式市場は徐々にその水準を切り下げており、この下がり方は、利上げの後に市場が失望して急落する場合に比べ、なだらかであるはずである。もしこの推測が事実であるとすれば、イエレン議長は非常に優秀な中銀総裁であることになる。
このシナリオが正しい場合、利上げが延期になる可能性があるが、しかしながら株式市場は下落することになる。いずれにせよ米国株が上昇するシナリオは描きづらいだろう。
結論
わたしはイエレン議長を過大評価しているだろうか? しかし、様々な可能性を考慮しておくことは重要である。そして、投資家にとって何よりも重要であるのは、シナリオの詳細がどうあれ、Fedが量的緩和バブル崩壊を懸念しているかぎり、米国株の上値が重く、Fedの金融政策が日銀やECB(欧州中央銀行)よりハト派になることはないという路線は変わらないということである。
量的緩和バブルは何故崩壊するのか? Fedは何を防ごうとしているのか? 以下の記事は何度も引用しているが、量的緩和によって資金が株式市場に流入し、そして最後には流出してゆく様子を書いてあるので、是非読んでおいてほしい。
また、今回のFOMC会合ではリッチモンド連銀総裁のラッカー氏が利上げに票を投じた。次回の10月の会合ではどうなっているだろうか? この点にも注目したい。