金価格急落: 価格の下落自体は既定路線も原因に新たな要素あり

さて、金価格の下落が始まったようである。2015年に入ってから概ね1150-1250ドルのレンジで推移していた金価格は、7月に入り徐々に下がり始め、20日には遂に1100ドルを割り込んだ。まだ暴落とは言えないが、ここ最近では見ていない急落ではある。

以前にも書いた通り、金価格の下落は米国の利上げ前の既定路線であるが、新たな要素として、今回の急落には米国だけではなく中国の景気減速も絡んでいるので、上記の記事に書いた買い下がりのレンジの見直しなども含めて、金の今後について書いてゆきたい。

ドル高とコモディティ価格の下落

先ず、今回の急落にはいくつかの要素が絡み合っているが、主な原因は以下の2つである。

  • 利上げが近づいたことによるドル高
  • 中国の景気減速によるコモディティ安

先ずはドル高だが、こちらは以前の記事にも書いた既定路線であり、ドル高とは進めば進むほど逆流のリスクが高くなるトレンドである。ドル高が行き過ぎれば米国の輸出業はダメージを受け、その結果もしGDPに大きな影響が出れば、Fed(連邦準備制度)には単に利上げを止めるだけではなく、量的緩和を再開する選択肢もある。

米国が量的緩和を再開すれば、金は暴騰することになる。だから米国だけに焦点を当てて言えば、金の下落トレンドが長期で続くことはなく、進めば進むほど反発の可能性が高まるバネのようなトレンドだと言える。

米国はいずれ量的緩和を再開する

ドル高が輸出に与える影響が多かれ少なかれ、Fedはいずれ量的緩和を再開せざるを得ない。株式市場が持たないからである。今は日本とユーロ圏の量的緩和に支えられ、債券市場が暴落していないために株式市場も高値で推移しているが、すべての先進国の量的緩和が終わり、債券が下落するとき、株式市場は量的緩和バブルをすべて吹き飛ばすことになる。詳細は以前の記事に書いたので、そちらを参照してほしい。

新たな懸念となった中国

金価格に話を戻そう。ここまでは以前の記事に書いた内容と同じだが、今回直接の引き金を引いたのは中国の景気減速である。これについては、最近の中国株安が投資家の目を中国に向けさせた感じがある。

中国の成長が続かないのではないかというのは何年も前からの懸念だったが、最近になって成長が明らかに鈍化しているのである。フィクションである中国のGDPを除けば、例えばここにグラフが掲載されている電力消費量や貨物輸送量などの数値は、ついに前年同期比でマイナスに差し掛かっている。

他のデータも中国経済の深刻な状況を示している。以下の記事では海運株の分析を行ったが、執筆時に見かけた商船三井によるマーケットデータにも中国経済に関するものがあり、粗鋼生産量、鉄鉱石輸入量ともに、2015年頃からマイナス成長に足を踏み入れているのが分かる。

どうやら多くの指標がマイナス成長を示しているようである。中国政府が創作したGDPによれば最新のデータは7%成長であるそうだが、実際のところはかなり景気減退(リセッション)に近いのではないだろうか。

金はいつ、どの価格で買うべきか?

さて、金である。先ず目安となるのは、生産コストと言われる1000-1200ドルのレンジであり、以前の記事にもこのレンジを割る可能性について記述した。利上げとはそれほどのインパクトのあるものであり、また多くの投資家がこのラインを割らないものと信じているからである。そういう投資家が投げ売りをするとき、相場はようやく底を作り始めるのである。

以前の記事では利上げが進むにつれ、このラインを割った辺り、800-1000ドルで買い入れを行うことを提案したが、中国の懸念が出てきたため、多少修正が必要である。方法は二つある。一つは金のほかにチャイナ・リスクをヘッジできるポジションを作ることであり、もう一つは単純により安いレンジで買うことである。

チャイナ・リスクをヘッジする

金は中国だけでなく、世界中の投資家や中央銀行が保有する資産であり、中国の需要減だけでは金の需要は決まらない。一方で、銅や鉄鉱石は中国の消費が大きく、事実、7月に入ってからはこれらの下落幅は金よりも大きい。

中国の景気減速で利益が出るポジションを充分に持っていれば、800-1000ドルでの買いは問題ないのではないかと思う。あとは米国の利上げのスピードを見ながら、一度の利上げで金価格が急落したところで一気に買うのでなく、二度、三度と利上げが進むにつれて徐々に買ってゆくことである。株式市場に影響が出、Fedが量的緩和を再開しなければならないラインを意識しながら投資することになる。

しかしながら、銅や鉄鉱石および関連銘柄は既にかなり下落しており、空売りに適した銘柄が見つからないかもしれない。その場合は単純に、金をより安い価格で買い入れるほかない。

実際に買えるかどうかは微妙なところだが、700-900ドルのレンジを推奨したい。要するに、チャイナ・リスクを十分にヘッジできない場合、金を買ってはならないということである。

最近のコモディティ相場の下落は日銀やECB(欧州中央銀行)の政策に影響を及ぼすかもしれない。中央銀行の動向予測については以下の記事で書いたが、今後も消費者物価など各指標を注視してゆきたい。