後日(6月28日)の記事:
さて、ギリシャ問題が瀬戸際である。ギリシャは6月30日にIMFへの約15億ユーロの返済期限を迎え、IMFは資金が支払われない場合デフォルトと見なすと宣言している。ギリシャは債権団の支援がなければこの支払いが不可能な状況にある。
個人的には、ギリシャがユーロ圏を離脱する事態になるとは思っていない。ドイツがそれを望んでいないからである。ドイツ人の欧州統一への意欲は外国人には理解しがたいほどであり、その根底には第二次世界大戦とそれ以前のドイツの歴史がある。
しかしながら、投資家としては離脱の可能性と、その場合ユーロがどうなるのかを考えないわけにはゆかないだろう。今後考えられるシナリオを順に考えてゆこう。
ギリシャが債権団と合意、ユーロ圏に残留
先ずは大団円シナリオである。この場合、目先の不安は取り除かれるが、加盟国がデフォルトした場合どうなるのか、というユーロそのものへの根本的な懸念は棚上げされることになる。この棚上げをどう評価するかである。
そもそも、ソロス氏などが数年前から主張しているように、経済成長率や債務などの違いにかかわらず共通の中央銀行を維持しようと思えば、共通の財務省をも作らなければならないのであり、加盟国は遅かれ早かれこの問題を真剣に議論することになるだろう。
しかしながら、それまではユーロは若干の不安を抱えながらも通常の通貨として扱われることになる。つまりはマネタリーベース比率や金利差などによって為替レートが決まってゆくことになる。
以下の記事に書いたように、ユーロドルの適正値は、2016年9月までの量的緩和を織り込んだ水準で1.15前後である。
目先の不安が取り除かれたことで、短期的にはこれよりも高い水準で推移することもあるだろう。
ギリシャ問題が合意に至る場合、ユーロに関しては基本的には上記の記事を参考にしてほしいが、失業率の改善により量的緩和が予定通り来年9月で終了となると噂されているこの時期にギリシャ問題が解決すれば、ショートポジションの巻き戻しが生じる可能性があるだろう。
ギリシャが債権団と決裂、ユーロ圏を離脱
次は交渉決裂のシナリオである。この場合、ギリシャはデフォルトを宣言してユーロ圏から離脱することになる。
この場合、デフォルトを宣言したギリシャの金利は高騰し、ギリシャは独自通貨のドラクマを発行することになる。ドラクマはユーロに比べて非常に弱い通貨となるだろう。
ギリシャは高金利と輸入物価高のために恐らく不況に陥るだろうが、安い通貨は観光立国ギリシャを助け、長期的には経済回復をもたらすだろうと予想している。逆に交渉が成立してしまえば、ギリシャは強い通貨と緊縮財政の板挟みのまま、債権団による延命装置に繋がれることになる。結局のところ、ユーロは経済も立場も強いドイツの味方であり、弱い国々には厳しい制度なのである。
さて、一方で、ギリシャの離脱はユーロ高要因である。しかもデフォルトした加盟国の離脱が許されるという事実は、ユーロの抱える問題をすべて解決する。問題があれば次々に離脱させて、結局はドイツマルクになってしまえば良いからである。これは、以下の記事で伝えてきたユーロからの資金逃避がすべて逆流しうるということである。
この場合のユーロ売りの巻き戻しは、債権団との合意によるショート巻き戻しとは比較にならないほど強力なものになる可能性がある。
ただ、デフォルトが宣言された場合の短期的な値動きについては不明瞭な点が多い。個人的な感触では、機関投資家たちは「ギリシャ離脱ならばユーロ高」で合意が出来てきたように思うが、リスクを回避したいと思う資金の流れが短期的にユーロ安を引き起こすこともありうる。
このシナリオが生じた場合には、いつ、どの水準で買いを入れるのかが問題となる。投資家のトレーダーとしての腕が試される局面となるだろう。
文化としてのユーロ
しかしながら、共通通貨ユーロはもはや経済の問題ではなく、政治と文化の問題である。経済の観点から見ればとうに崩壊していてもおかしくないユーロは、ドイツが欧州の団結にこだわり続ける限り、存続してゆく可能性が高い。
欧州は複雑である。例えば、EUがノーベル平和賞に選ばれたというのは外野からは理解が難しいが、世界大戦の教訓から言えば、欧州の団結は戦争のない世界に繋がるのであり、ユーロとはそういう観点で見なければならないのである。
たかだかギリシャの救済費用程度でドイツがユーロに亀裂を許すとは思えないが、金融市場におけるリスクは一応精査すべきである。投資家は政治家ではないからである。