さて、ついに長期金利が上がり始めた。Fed(連邦準備制度)の量的緩和終了後も、欧州の低金利に合わせる形で低く抑えられていた米国の長期金利は、半年ぶりの水準である2.5%まで上がり(債券価格の下落)、何より市場を驚かせたのは、マイナス金利入りも目前かと思われたドイツの10年債が、4月の0.1%から1%まで大幅に上昇したことである。
上記の記事の通り、ドイツの国債は2014年1月にECB(欧州中央銀行)の緩和を一番最初に織り込み始めた金融資産であり、その頃から4月まで、一貫して強い上昇トレンドにあった。
これが短期的な調整かと問われれば、少なくとも下落の意味は重大であると答えたい。量的緩和の最中にこのような下落があるということは、米国債も日本国債も経験してこなかった。ECBが先進国最後の量的緩和であるということ、そしてECBが出口戦略を考えるときに、量的緩和で債券価格を支えてくれる他の国がないということを、投資家が恐れているのである。
低すぎたドイツの長期金利
ファンダメンタルズで言えば、0.1%というドイツの長期金利は確かに低すぎた。以下の記事で書いたように、ドイツのCPI(消費者物価指数)と失業率は順調に回復しており、このまま量的緩和が進めば、0.1%の長期金利など正当化出来ないほどに経済は順調となるだろう。
著名債券投資家のビル・グロス氏は急落直前、ドイツ国債は一生に一度の売り場だと発言していた。本人はこれほど早く急落するとは思っていなかったらしく、利益を取り損ねたようであるが、彼を含め、多くの優れた投資家はドイツの金融資産がバブルになると踏んでいたのであり、ここでもそのような記事を書いた。
しかし、前回の記事で説明したユーロ圏失業率の急激な改善により、ECBの量的緩和が予定通り2016年9月で終了してしまうかもしれないという予測が投資家のあいだに広がり、今回の債券下落に繋がったのである。
終わりの始まりに気が付いた資本市場
さて、この下落は、投資家がついに世界的な量的緩和相場の終わりを意識し始めたという点で重要である。緩和終了後の金融市場がどうなるかということは、もう何度も記事にしてきた。
今回の債券下落の意味するところは、先ず、ユーロ圏の失業率改善が続く限り、欧州の不動産株などの緩和銘柄の上値が限られるだろうということである。
1月から紹介してきた、フランクフルト国際空港などを所有するFraport (XETRA:FRA、Google Finance)はこの辺りが引き際であるかもしれない。とりわけ5月後半に大分上がったので、上昇につれて利益確定してゆく投資家には充分な利益になっただろう。
調整中の航空株
この局面で買ってゆける銘柄としては、JetBlue (NASDAQ:JBLU、Google Finance)やEasyjet (LSE:EZJ、Google Finance)などの格安航空株が挙げられる。原油の反発で株価が下落しているが、シェールオイルのリグは再稼働が容易であるため、原油価格の上値は限られている。双方ともにP/E(株価収益率)が10-12のレンジで買いが報われる好業績銘柄である。
金利高を背景に保険株が好調
その他には、以前より推奨している、米国の保険会社Lincoln National (NYSE:LNC、Google Finance)の買いとS&P 500の売りのロング・ショートが好調である。米国株が調整に入る中、長期金利の上昇を背景として保険株に買いが入っている。以前より紹介してきたシナリオ通りである。
Lincoln NationalはP/Eが未だ11を超えておらず、このまま金利高が続けばP/E 14までは株価が伸びるのではないかと考えている。
Micronは遂にP/E 7台へ
以前より紹介している半導体メーカーのMicron (NASDAQ:MU、Google Finance)は遂にP/E 7台に突入している。思い出されるのは2013年のAppleの調整局面であり、こういう長く異常な調整に入った銘柄はそこから抜け出すのにも時間がかかる。
そこで推奨されるのが、以前にも言及したプット・オプションの売りである。オプションは時間経過とともに価格が下がる金融商品であり、長い期間株価が変わらずとも、売り持ちをし続けるだけで利益が入る仕組みである。(プットの売りは株価上昇へのベットである。)
P/E 7を万一下回るようなことがあれば、ほとんど財政破綻が懸念される企業の評価水準だが、Micronの決算は現状非常に健全である。市場が何と言おうとも、割安は買いである。
Daimlerはやや反発
前回の記事で€70-€80のレンジは買いと書いたDaimler (XETRA:DAI、Google Finance)は、一時€79台に入った後反発し、€84前後で取引されている。レンジをすぐに抜けてしまったが、今後再び落ちてくるようなことがあれば、変わらず買いである。
緩和頼みの金融市場
結局のところ問題は、ECBが2016年9月以降も緩和を継続するのかというところであるが、ECBから明確なコメントは出ていない。この命題をECBの発言からどう読み解いてゆくかは、前回の記事を参考にしてほしい。
しかし、これまで緩和終了を織り込もうとしなかった金融市場が、遂に終わりを意識し始めたわけである。今後の展開については、これまで充分に記事にしている。あとは期を待つのみである。