金はいつ買うべきか?: 2015年以降の金融市場暴落を逃れるために

米国の量的緩和によって2012年に史上最高値1,921ドルを記録した金の価格上昇は、Fed(連邦準備制度)の量的緩和終了とともに終わりを告げ、金は2013年から2015年にかけて急落、1,200ドル前後まで値を落としている。金は、金融緩和によって通貨が価値を下げるときに買われ、そして通貨の価値が戻るときに売られるのである。

量的緩和を既に停止した米国に続き、日本の量的緩和も2年の期間の半分が終了した。ユーロ圏の量的緩和も2016年の9月が目処である。それでは2015年以降の金価格はどうなるのか? 金は更に下落するのか? 答えは条件付きのイエスである。すなわち、世界的な量的緩和が無事に出口を迎えれば、金の価格は更に下落するだろう。しかしながら、その前提が不可能であることは、これまで何度も記事にしてきた。

これは投資家自身が一番良く知っているはずである。特に米国の投資家は、株式市場が少しでも下落すれば、量的緩和の支えがあるからと、量的緩和を理由にこぞって押し目買いをしてきたのである。量的緩和を理由に株を買ってきた彼らの大半は、量的緩和が終わった今もそのポジションを抱えている。彼らが買ってきた理由がなくなったにもかかわらず、そのポジションはまだあるのである。

世界的な量的緩和が終われば、金融市場は暴落を免れないだろう。その理由と今後の展開については上記の記事を参照してほしいが、この記事では金価格への影響を考えたい。金は市場の暴落から逃れる数少ない手段だからである。

先ず、金価格はドル高と反相関であることを意識したい。金はドルで取引されているため、ドル表記で金の値段が上がるということは、ドルの価値が下がったということであり、逆にドルの価値が上がるときには金の価格は下がることになる。

では現状のドル高はどういう性質のものか? 重要なのは、ドル高は米国が逃れられない宿命的なトレンドではなく、上昇すれば上昇するほど反落の確率が上がるバネのようなものだということである。米国にはドル高を避けられない理由はない。ドルが上昇し過ぎたと思えば、金融引き締めに動かなければよいだけでなく、量的緩和を再開することもできる。

グローバルマクロ戦略で大きく賭けられるトレンドとは、イギリス政府がポンドの買い支えに失敗することが不可避であったポンド危機のように、一方向に進むしかない宿命付けられたトレンドであり、現在のドル高のように当局が避けようと思えばいくらでも避けられるトレンドではない。そしてだからこそ、ドル高が進みすぎたときには金に資金を移すことが正当化されるのである。行き過ぎたドル高は当局によって是正されるからである。

では、金はいつ買うべきか? 一つの評価軸となるのは、やはり平均生産コストとされている1,000-1,200ドルだろう。生産コストは国ごと・会社ごとに大きく違うが、このラインが一つの目安となることは確かであり、事実、金価格は史上最高値からの大きな下落のあと、この価格帯を緩衝材にレンジ相場を演じている。

平均生産コストから充分割り引かれた価格で買いを入れるというのは、一つの選択肢である。具体的には800-1,000ドルのレンジでの買い入れである。しかし、現在の状況では価格で買うタイミングを決めるよりも、市場の今後の展開を考えて、買うタイミングを決定したほうが良いだろうと思う。

金は米国の利上げまで低価格を維持するだろう。利上げが実際に行われれば、レンジを下抜けることもあるはずである。利上げが2度、3度と行われれば、金は投げ売りされるだろうが、恐らくそれが底値である。

ドル高が懸念されているが、1度目の利上げは予定通り今年中に行われるだろうと思う。ドル高が輸出を圧迫しようとも、ユーロ圏と日本が量的緩和をしている間が、米国の出口戦略の最後のチャンスであるはずである。2度目の利上げは困難だが恐らく可能である。しかし、利上げも3度目になれば金融市場の暴落は免れないと思う。この辺りについてはこれまで書いてきた通りである。

したがって結論としては、最高で3度の利上げを想定しながら、米国の利上げで金が売られるたびに、その安値で段階的に金を買ってゆくのが良いだろう。

市場が暴落すれば、米国は量的緩和の再開を余儀なくされる。他の主要国もそれに続くだろう。そうしてあらゆる通貨の価値が失われるとき、買われるのはやはり金である。2008年の金融危機以来初めて、金を買うべきときが訪れようとしている。